第1部 なぜ深く知るのか · 第1回 / 全20回 · 15分くらい
使いこなせるようになった人がぶつかる、3つの壁
指示も書けて、CLAUDE.md もあり、自動化もいくつか動いている。それでも困りごとはなくなりません。入門編の3つの壁は、使いこなすほど形を変えて戻ってきます。この回では、その壁がなぜ生まれるのかを、数字と実例で確かめます。
履修 0 / 20 回
この回を読み終えると、できるようになること
- 「気づかないうちに壊れる」「前提が古くなる」「作りすぎる」の3つを、自分の仕組みの例で説明できる
- 仕組みの数が増えると、全部が無事に動く確率がどう下がるかを計算できる
- 「動いたか」ではなく「届いたか」で確かめる、という見方を説明できる
専門用語は、初めて出たところで括弧に短い説明を付けています。説明が長くなるものには ※番号を付け、ページの終わりの用語メモにまとめました。
1入門編の壁は、1つの作業の中の話だった
入門編の壁は「再現しない・確かめられない・続かない」の3つでした。どれも、1つの作業をAIに頼むときの話です。指示を整え、前提をファイルに置き、確かめる仕組みを作り、定時に動かす。ここまでできると、その壁はかなり低くなります。
ところが、仕組みが10個、20個と増えてくると、別の種類の困りごとが出てきます。1つずつは正しく作ったのに、全体として見ると、どこかがいつも少し壊れている。この講座は、その段階の話をします。
2壁1:気づかないうちに壊れる
エラーで止まる仕組みは、まだ親切です。困るのは、何もしていないのに「正常に終わった」と記録される壊れ方です。自分の環境では、次の2つが実際に起きました。
- バックアップのジョブが、送り先の設定が空のまま5か月間、毎日「スキップして正常終了」していた。記録はずっと成功で、一度もバックアップしていなかった
- 週の振り返りを作るジョブが、Mac がスリープから戻った月曜の朝に動くと、終わった週ではなく始まったばかりの週を集計していた
どちらもエラーは一度も出ていません。終了コード※1は0で、ログにも「完了」と出ていました。仕組みが「動いたか」だけを見ていると、この種類の失敗は見えません。
3壁2:前提が古くなる
CLAUDE.md やメモリは、足すのは簡単で、減らす人はほとんどいません。半年たつと、もう存在しないファイル名、ぶつかり合うルール、誰も守っていない約束が混ざってきます。
Claude Code のドキュメントには、CLAUDE.md は1ファイル200行以内を目安にすること、長くなると守られにくくなること、矛盾したルールがあると、AIがどちらかを適当に選ぶことがある、と書かれています。AIは書かれたことを全部まじめに読むので、古い前提があると、まじめに迷います。
4壁3:作りすぎる
仕組みを作れるようになると、作ること自体が楽しくなります。その結果、使っていないスキル、誰も読まない通知、止め方のわからない定時実行が増えていきます。
数が増えると何が起きるかは、計算で確かめられます。1つの仕組みが1日に問題なく動く確率を99%とします。互いに関係なく壊れるとすると、全部が無事な確率は掛け算になります。
| 仕組みの数 | 1日、全部が無事な確率 |
|---|---|
| 10個 | 0.9910 ≒ 90% |
| 30個 | 0.9930 ≒ 74% |
| 72個 | 0.9972 ≒ 48% |
72個あれば、2日に1日はどこかが壊れている計算です。自分の環境の定時ジョブはちょうど72本でした。1つずつの出来をいくら上げても、数が増えれば「どこかが壊れている」のが普通の状態になります。
53つの壁はつながっている
作りすぎるから前提が増えて古くなり、古い前提の上で動く仕組みが、気づかないうちに壊れる。3つは別々の問題ではなく、1本の流れです。
だからこの講座では、どの段でも「どう作るか」と同じ重さで、どう確かめるか・どう止めるか・どう減らすかを扱います。
6「動いたか」ではなく「届いたか」を見る
Google のシステム運用の本(SRE本※2)では、監視は「何が壊れているか(症状)」を見て、「なぜ壊れたか(原因)」はそのあとで調べる、と書かれています。利用する側から見て困っていることを先に見張る、という考え方です。
自分の仕組みに当てはめると、「ジョブが動いたか」ではなく「成果物が届いているか」を見る、ということです。バックアップなら「今日のファイルが送り先にあるか」、週の振り返りなら「先週の分があるか」。こう見ていれば、上の2つの失敗はその日のうちに気づけました。
誤解よくある思い違い
エラーが出ていなければ、ちゃんと動いている
何もしなかった回も、多くの仕組みでは「正常終了」になります。成功の記録と、成果物が届いたことは別物です。
仕組みは多いほど、自分の手間が減る
1つずつは手間を減らしても、数が増えると「どこかが壊れている」状態が普通になり、直す手間が増えます。
演習手を動かして確かめる
演習1
1日に問題なく動く確率が99.5%の仕組みが30個あります。1日、全部が無事な確率はおよそ何%でしょうか。また、1か月(30日)のうち、どこかが壊れている日はおよそ何日あるでしょうか。
答えを見る
0.99530 ≒ 0.86 なので、全部が無事な日は約86%です。どこかが壊れている日は 30 × 0.14 ≒ 4日ほどです。1つずつを99.5%まで良くしても、30個あれば週に1日くらいはどこかが壊れている計算になります。
演習2
次の3つは、3つの壁のどれに当たるでしょうか。
- CLAUDE.md に「テストは npm test」と「テストは pnpm test」の両方が書いてある
- 使い道を思い出せないスキルが30個ある
- メモの取り込みジョブが「0件・成功」を2か月続けている
答えを見る
1は前提が古くなる(矛盾したルール)、2は作りすぎる、3は気づかないうちに壊れるです。3は「本当に入力が無い」のか「読めていない」のかを、まず見分ける必要があります。
この講座の失敗例は、ほとんどが自分の自動化で実際に起きたことです。大きな事故より、「気づくのが遅れた小さなずれ」のほうがずっと多かったです。
用語メモ本文の ※番号の説明
出典確かめた資料(2026年10月時点)
- Google「Site Reliability Engineering」6章 Monitoring Distributed Systems 症状と原因を分けて見張る考え方。
- Claude Code Docs「How Claude remembers your project」 CLAUDE.md は200行以内が目安、長いと守られにくい、矛盾があるとどちらかを選ぶことがある、という記述。